2016年7月29日
小笠原 文
「沙羅双樹」と聞いて、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。
日本古来の物語『平家物語』の冒頭「祇園精舎」は次のような一節から始まります。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
※現代語訳
祇園精舎の鐘の音には、すべてのものは常に変化し、同じところにとどまることはないという響きがある。沙羅双樹の花の色は、盛んな者も必ず衰えるという道理を示している。
現在は小学校の国語の教科書にも載っているようですよ。
実は、ここに出てくる「沙羅双樹」。
寒さに弱く温室でないと日本で育てることはほとんどできないそうです。
日本における「沙羅双樹」とは、ツバキ科の「夏椿(ナツツバキ)」のことを言います。
◆なぜ「沙羅双樹」=「夏椿」?
昔、ある僧侶が「仏教に繋がりの深いこの日本にもきっと沙羅双樹があるはずだ」と山のあちらこちらを探し回り、「これだ!」とやっとみつけだしたものが「夏椿」、、、だったそうです。
すっかり本物だと思い込んでしまい、それが広まっていったと伝えられています。
また、この花の寿命はわずか1日。
朝に咲き、夜には落ちてしまいます。
ツバキ科なので、花全体がポトリとそのまま落ちます。
この性質に人生の儚さを表した「盛者必衰」が感じられるからや、葉っぱが沙羅双樹と似ているから。などの諸説もあります。
東南アジアではもうひとつの「サラの木」があり、タイやカンボジアの寺院によくあります。
花は椿と同じように花全体がまとまって落ちます。
リンゴほどの大きさの非常に固い実がなり、この砲丸のような見た目から、和名は「ホウガンノキ」と言います。
日本のナツツバキと同じく、本物の沙羅の木の代わりとして寺院などで大切に育てられているようですよ。
【沙羅双樹】
学名:Shorea robusta
科・属名:フタバガキ科・コディアエウム属
英名:Sal Tree
原産地:インド
開花期:5~7月
花の色:白、クリーム
別名:沙羅双樹(サラソウジュ・シャラソウジュ)・沙羅の木(シャラノキ)開花するのはとてもめずらしいことで、ジャスミンのような香りや、バラやオレンジ・ぶどうなどにも含まれる香り成分も含有しています。
沙羅双樹
○釈迦が生まれたところにあった「無憂樹 (ムユウジュ)」
○悟りを開いたところにあった「印度菩提樹 (インドボダイジュ)」
○涅槃のときにあった「沙羅双樹 (サラソウジュ)」
仏教ではこの3つを【三大聖木】としています。
入滅の場所では、四方に「沙羅の木」が2本 (双樹) ずつ計8本あり、釈迦はその間に横たわり最後の説法をされたあと、涅槃に入られたそうです。
そして、そこに植えてあった木を「沙羅双樹」と名付け、特別な木として今でも大切にされています。
◆こんな話も。
双樹は釈迦の入滅を悲しみ、
ちなみに日本では、入滅の日を旧暦の2月15日とし、釈迦の教えや徳に感謝する『涅槃会(ねはんえ)』という法会が、各お寺で行われています。
夏椿を見かけたら、お釈迦さまの入滅の様子に想いを馳せてみてはいかがでしょう。
そして、“夏椿” を「沙羅の木だ」と言った僧侶のことも、、、。
それがなければ平家物語の内容も少し変わっていたのかもしれませんね。
***豆情報***
お釈迦さまの危篤を知った動物たちが仲間に広く呼びかけ集まった絵も描かれている「涅槃図」。
インド由来の動物から、想像上の龍の姿まであります。
しかし、そこに猫の姿が描かれていません!
・猫に悪さをされたことのあるネズミが、わざと猫には伝えなかったから。
・猫は樹にひっか掛かっている薬袋(釈迦のお母様が釈迦の病気を治す為に天から送られてきた)を取りに行くネズミを捕まえた為に薬が届かず病気が治らなかったから。
などの理由で、猫は涅槃図に描かれないという諸説が伝えられています。
また、
・猫は遅れてしまった為に「顔を洗って出直して来い」と云われ今でも前足で顔を洗っている。
なんていう話も。
しかし実際は、この時代に猫はまだインドに居なかった。ということらしいのですが。
その後、図をみた絵師が自分の飼い猫をそっと描き入れたり、涅槃図を描いているところへ探していた紅色を猫がくわえて持ってきてくれたから、猫も描き足した。
という涅槃図もあり、日本では十数例ほどしかなく、大変珍しいものだそうです。