2016年8月23日
ゆきゑ
宇宙にあまねく生命の気であるプラーナ( Prana )は、ヨガの練習で最も頻繁に出てくる言葉ではないでしょうか。
アーサナを深める呼吸とともに、体を満たすプラーナを意識することは、心と身体への繊細な感覚を開いてゆく意識開発とも云えます。
さて、このプラーナ。気/エネルギーの質、流れ、特有の機能といった構成要素の違いと、身体のパーツに従い、大きく分けて5つのプラーナがあると定義されています。
この5つのエネルギーをサンスクリット語で、ヴァユス(Vayus/複数型)といいます。
ヴァユスのエネルギーの流れと機能は、私達の日常の機能に全くもって連繋しています。
食べる、飲む、情報を受けとる、経験をする. . . .
私達は何かを摂取すると、ある予測できるパターンでもってそれをプロセスしてゆきます。
例えば食べ物。
食物は口の中で噛み砕かれ、胃の中で更に酵素により撹拌され消化されて、小腸の中で必要な栄養が摂取されると、必要の無いものが大腸へ送られ、排泄されますね。
勉強することも新しい経験をすることも、同じです。その知識や内容を消化し、必要なもの必要の無いものに振り分け記憶したり、手放したりといったことを、私達は感情やメンタルなレベルで行っています。
心と身体はつながっている。
そしてそれは、ヴァユスという繊細なエネルギーを理解することで、より明確に感覚を深め、体感し、自身をケアすることができるのです。
興味深いですよね。
それぞれのヴァユスがどの様な特徴と働きがあるのかをみてゆきましょう。
摂取する機能を司ります。下へ、そして内側へと流れる、生命の基礎となるエネルギーです。
心臓と首の間に蓄積するエネルギーですが、元来頭にあり、脳と目を活性する役目があります。そして、肺と呼吸機能に関連があります。
プラナ ヴァユの流れは肺を広げ、内在する気を拡張させます。プラナ ヴァユに満ちている時、呼吸器官はしっかりと働き、マインドのポジティブさを保つことができます。
このヴァユの流れの滞り、またこのエネルギーの不均衡は、心配や恐れ、怒りといった感情として現れます。
身体的症状には、呼吸困難、喘息、無呼吸症候群、動悸、心臓発作が関連しています。
他4つのヴァユスに働きかけ、それらヴァユスに栄養を注ぐ監督的役割を果たしているのがプラナ ヴァユです。
排泄する機能と共に、維持と存続の機能を司ります。下へ、そして外へと流れるエネルギーです。
炭素、一酸化物、尿、大便といった、生命活動により生じる体内の毒素を排出する機能に関わると共に、必要なものを維持する作用を助けます。
骨盤の内に位置し、臍窩下より排泄に関わる臓器すべてに関連しつつ、消化器官、生殖器官、そして排泄器官を活性するエネルギーです。
身体の基本的支柱となる骨格の健康に関わりがあり、ミネラルの吸収と保持を統制する機能を助ける働きがあります。
アパナ ヴァユに満ちている時、私達は安心感に満ち、安定した基盤に支えられています。
反対にこのヴァユの均衡が失われると、怠慢や不精、心身の重さ、心や頭の中の混乱、知力の衰えを引き起こします。
身体的症状としては、便秘、下痢、過敏性腸症候群、月経や骨密度、または性交にまつわる問題が関連します。
プラナ ヴァユとアパナ ヴァユは2大ヴァユスと云われ、この2つのヴァユスのバランスが整っていると、他の3つのヴァユスの均衡は自動的に保たれます。
代謝機能を司り、消化システムの全過程に関わりがあります。また、体系化や組織化するといった物事をプロセスする働きに関係しています。
心臓と臍の間に位置し、臍を中心に撹拌されるように廻るように流れるエネルギーです。
消化吸収とは、必要なもの、必要の無いものを振り分け、どこへ行くのか廻すのかを判断する作用ですね。サマナ ヴァユは身体、感情、思考、というすべてのレベルにおける消化吸収のプロセスを助けます。
このエネルギーに満ちている時、感情表現はすっきりくっきり、後腐れがありません。物事の区別や差別化が明確にできます。
対してサマナ ヴァユの力の弱体や乱れは、感情やメンタル面での混乱を引き起こします。人間関係の混乱や、対人の境界について問題を生じる原因となります。
代謝機能の問題、消化不良、鼓腸(腸管にガスがたまり腹部が膨張する状態)、食欲減退といった身体症状が、サマナ ヴァユの不均衡として現れます。
維持と成長の機能を司り、話す力や言語能力を統制し、自己表現力に関わりがあります。しっかりと立つ、努力、情熱、意志を保つ能力を統制するエネルギーです。
咽頭から頭部の領域に位置し、首から頭を循環するエネルギーで、上へ上がり外へと出す活力に関係しています。
脳内のメンタル機能や感覚すべてに作用し、脳へと運ばれる血液の循環に関わりがあります。
ウダナ ヴァユの循環がスムーズであれば、言葉の力を駆使することができ、伝える力、行動の計画力の高い能力を維持できます。
反対にこの働きが弱まると、声が不安定でかすれたり、しわがれた声として現れます。音程をしっかりとることもできません。どもりの原因にもなります。
鬱症状、記憶力や管理能力の低下、目標や目的の欠如、乏しい創造力などが引き起こされます。
身体的障害として、喘息、肺気腫が挙げられます。
総合的な調整に関わり、筋肉と関節の動きを統合し、微細な結合細胞のような働きをしています。身体全体へエネルギーを分配する作用に関わりがあります。
心臓と肺に位置しています。身体の中心から末梢部へ循環し、脈のように振動するエネルギーです。
ヴィヤナ ヴァユの結合細胞のような働きは、身体と思考の統合性にも関わりがあります。
クンダリーニヨガでは人間という存在は、身体を含め10の体があると定義しています。そのエネルギー的体のひとつであるプラニック体が、身体と思考にしっかりと結合するための粘性の働きをこのヴィヤナ ヴァユは果たしています。
ヴァヤナ ヴァユに満ちている時、すべては相互に連結し、私達は絶え間ない循環と供給の流れに乗っています。
反対にこのエネルギーの弱体や乱れは、他との繋がりの欠落、疎外感、思考力の散漫、思いを言葉にする能力の低下、などが生じてきます。
身体症状として、循環器不良、関節炎、心臓麻痺、浮腫(むくみ)、末梢神経障害、多発性硬化症などの原因となります。
ヨーガの科学と技術は、何千年にも及ぶ観察と実験の結晶です。そしてそれは、これらヴァユスを抜きにして語ることはできません。
ヴァユスを理解し、そのエネルギーの流れを統御する練習とは、内面への集中力を高め、繊細な感覚を開くことであり、微細な体を感じる能力を養う、ヨーガの神髄と云えるのではないでしょうか。
※ 身体症状は、インド伝承医学アーユルヴェーダの見解に依ります。
※ クンダリーニヨガもアーユルヴェーダも、病状を診断することはありません。また、その特定の症状の治癒を直接的な目的にはいたしておりません。