2021年11月10日
kako
“YOUR MOM AND DAD came on a banana boat”
”あなたのパパとママはバナナボートに乗ってやってきたんでしょ?”
と、むかし幼稚園で意地悪な男の子たちにからかわれた。
という一文から始まる、イギリス作家Andrea Levyの小説、”Fruit Of The Lemon”。
なんだか美味しそうで可愛らしいタイトルの小説。
ページをめくると文章よりもはじめに目がつくのが、主人公の家系図です。
と言っても、真ん中に小さく4人の名前が書いてあるだけ。
この家系図が、ラストにはページいっぱいになるくらいの大きなものになっています。
その様子がたくさんの実をつけるレモンの木のようだということからこのタイトルがつけられました。
主人公は、1980年代のイギリスに住む、ジャマイカ生まれの父と母を持つ有色人種の女の子、Faith。
Faithは大学を卒業し仕事を手に入れますが、肌の色が原因で数ヶ月でクビになり、
その後も友達との関係、恋愛もうまくいかずに引きこもってしまいます。
そんな娘を見かねた両親はFaithに、自分たちの故郷であるジャマイカへ行くことを勧めます。
イギリスで生まれ育ったFaithがはじめて両親の故郷であるジャマイカへ渡り、いろいろな人に会い、話を聞くうちに、
少しずつ、自分の近い親戚や遠い親戚まで、ジャマイカには自分と繋がりがある人がたくさんいることを知り、
場所としてではなく、自分の心の中に ”home” を見つけていくお話です。
○ささいなこと、大事なこと
この物語の前半部分、イギリスでの生活では、
イギリスで起こっている人種や階級差別の変化がFaithの日常生活の中に描かれています。
Faithは、有色人種ではありながらも生まれも育ちもイギリスで、
イギリス人として生活しています。
彼女の両親がイギリスに渡ってきたころとは時代が変わり、彼女は目立って何か差別をされて辛い思いをして生きてきたわけではありません。
けれど周りの人の言葉や行動の些細なこと、ふとしたところに、差別的なことが描かれています。
例えば、彼女の仲のいい友達はみんな白人で、Faithのことを大事に思っています。
けれどそれは、「Faithだから」であり、彼女の目の前で他の有色人種の人に対する差別のような言動をしたりもします。
気づかぬうちにぽろっと出た言葉や、目線。
差別意識が、人々の奥深くに残っていて、なくなってはいないということが、小説の細かなところに描かれています。
これは人種だけの問題ではなくて、私たちが日々生活をする中でも言えることなのではないかとこの小説を通して学びました。
無意識だったり、悪気はなかったりしても、
気づかぬうちに誰かを自分と区別したり、
グループ分けをしたり。
些細な言葉や、視線、行動にもそういう気持ちは表れてしまうものだということ。
完璧でなくても、
自分の放つ言葉や、行動を少し意識をする、
努力をする、大事にする、
その気持ちがとても大事なのです。
○場所だけではなく、心のなかにも
Faithが仕事や友達関係、恋愛に悩んで引きこもってしまったのは、”home”を知らないからだと彼女の両親は考えます。
Faithが両親の生まれ育ったジャマイカに一度も関心を持たなかったこと。
自分がどこからやってきて、自分はどこの人なのか、生まれてから一度も知ろうとはしなかったこと。
そしてそれを察してFaithにジャマイカについて話さなかった両親。
その理由は小説内に書かれていませんが、
「”あなたのパパとママはバナナボートに乗ってやってきたんでしょ?”
と、むかし幼稚園で意地悪な男の子たちにからかわれた。」
という冒頭一文からも分かるように、
自分の両親の母国について、おそらく学校でも差別の対象となっていたことなどをFaithは勉強していたはず。
そのことが理由なんだと思います。
そんなFaithが物語の後半では、しぶしぶジャマイカへ渡り、Faith母の妹家族のもとでしばらく生活をすることになります。
ジャマイカを今まで全く知ろうともしなかったFaithは、場違いな服装で、不安な顔つきでその生活をスタートさせます。
自分の両親がジャマイカという国でどうやって育ったのか、
どうしてイギリスへ渡ってきたのか、
両親の兄弟や、おじいちゃんやおばあちゃん。
そのずっとずっと前の、奴隷として生活をしていた人や、いろいろな国へ渡っていた血の繋がった人たちのこと。
人伝いに、昔のお話をたくさん聞くことになります。
自分は「イギリス人」だけど、肌の色は白色じゃない。
そんなことを大人になるにつれて、イギリス生活の中で思い知らされ、自分は誰なのか分からず葛藤していたFaithですが、
自分とつながりのある人がジャマイカにはたくさんいる。
みんな立派に生きてきた人たちで、
自分の両親がジャマイカからバナナボートに乗ってやってきたとからかわれても恥ずかしがることなんかない。
自分の“家”はイギリスだけれど、心の ”home” はジャマイカにもある。
ということに気がつきます。
こうして日本で暮らしていれば知らなかったかもしれない、
大きなものを抱えて生きている、同い年くらいの女の子が実際に世界にはたくさんいるということ。
自分の”home”の場所と心が一致する人もいれば、
そうでない人もいること。
そして、
大事な自分の ”home” は場所だけではなくて
心の中にもあるということを教えてもらいました。
読書の秋、みなさまも一冊時間をかけて読んでみてはいかがでしょうか。
素敵な気づきがありますように。